日本産科婦人科学会、精子提供で生まれた子の「出自を知る権利」尊重へ新見解案
要約
第三者提供の精子による出生児が提供者と面会する権利を「できるだけ尊重する」とした見解案で、匿名性を重視してきた従来の姿勢からの転換が注目される。
提供者との面会権を「できるだけ尊重」
日本産科婦人科学会は、第三者から提供された精子を使って生まれた子どもの「出自を知る権利」に関する新たな見解の案を公表した。新見解案では、生まれた子どもが精子の提供者と会う権利をできるだけ尊重するとしている。
学会がこうした見解案を示したことは、これまで提供者の匿名性を前提としてきた日本の生殖補助医療のあり方に一石を投じるものだ。
国際的な潮流との乖離が背景に
日本では1949年以来、第三者提供精子による人工授精(AID)が行われてきた歴史があり、これまでに1万人以上の子どもが生まれている。しかし提供者の情報開示については長く匿名性が維持されてきた。
一方、国際的にはスイスやドイツ、イギリス、スウェーデン、オーストラリアなど多くの国が、子どもが一定年齢に達した後に提供者の情報を知ることができる制度を整備している。国連の児童の権利条約も、子どもが自身の遺伝的な親を知る権利を認めている。
ドナー確保との両立が課題
出自を知る権利の保障に向けては、提供者の確保が大きな課題となる。慶應義塾大学病院では、情報開示の可能性を提供者に説明し始めたところ、提供者数が大きく減少した経緯がある。匿名性が保たれなくなることへの懸念が、提供を躊躇させる要因となっている。
2024年には、民間クリニックで身元を明かすドナーによる制度が始まるなど、学会の公式見解に先行する形で現場での対応が進んでいた。今回の見解案は、こうした動きを踏まえたものとみられる。
法制度の面では、2020年に生殖医療による親子関係の民法特例法が成立し、精子提供者に親権がないことが明確化された。しかし、出自を知る権利そのものを保障する包括的な法律は未整備のままである。